著者
立花 得雄
出版者
愛知学院大学
雑誌
地域分析 : 愛知学院大学経営研究所々報 (ISSN:02859084)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.25-36, 2005-03-31

ドイツ会計の国際化への努力は, 数々の法規の公布によって理解できる。とくに, 2002年のEUの国際会計基準適用に関する命令によって, ますます国際会計基準によるドイツ会計報告の実施に関心が払われてきている。このEU-命令以前に, EUはその域内でコンツェルン決算書についてすでに国際会計基準採択を決定している。いわゆる「2005年問題」であるが, その意図するところは, コンツェルン決算書による企業実態の開示である。しかし, この程度にとどまるのではなく, 個別決算書にも国際会計基準への対応が迫られている。つまり, 全般にわたって会計法についてもパラダイム的変革が求められているのである。統一か調和の問題として国際会計基準の受け入れについては, 資本維持の原則, 用心の原則に特徴づけられたドイツ会計がどう対応するのか関心のあるところである。要するに計上・評価選択権をどの程度認めて, 整理するかの検討といえよう。部分的に会計項目について, IAS/IFRSとの対比で個々に検討されているが, 勿論, 保守主義の会計思考は当然にある程度制約される。しかし, 用心の原則を抑圧することに加担しない意見も多くある。将来, 個別決算書の行き着く先は判明しようが, 現在ではドイツでも国際会計基準への対応の道筋は模索中とみられる。いずれにせよ, 検討の途中にあるといえども, それなりに示唆ありと考える。
著者
岡田 義昭
出版者
愛知学院大学
雑誌
地域分析 : 愛知学院大学経営研究所々報 (ISSN:02859084)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-24, 2008-09

中国通貨当局の市場介入による人民元安維持が経常収支の黒字幅拡大・外貨準備増をもたらしており,こうした貿易不均衡を是正すべく中国為替制度の変更ならびに中国為替市場の改革を早急に押し進める必要があるとの国際的認識が今日顕著となった。しかしながら,中国の"趨勢的"な経常収支不均衡の是正は人民元レートの変動では困難なことを,本稿においてベクトル自己回帰モデル(VAR)に基づく実証分析により明らかにした。ただし,中国における上述為替制度・為替市場改革の議論は,経済厚生の観点からそうした貿易不均衡の議論とは切り離して検討をしておくことの必要性もあわせて指摘した。
著者
伊藤 徳正
出版者
愛知学院大学
雑誌
地域分析 : 愛知学院大学経営研究所々報 (ISSN:02859084)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.25-41, 2007-03-31

1928年に,実験物理学者のパーシー・ブリッジマンは,『現代物理学の論理』を発表し,操作主義を提唱した。操作主義とは,「概念の正当なる定義は,そのものの特性によるのではなく,実際の操作によるのである」というものである。この後,心理学や社会学,哲学など様々な分野に操作主義が応用された。ベドフォードは『利益決定論』で,利益概念の本質を明らかにするための方法論として,利益概念に操作主義を適用した。操作的概念は,企業の「経営活動」に適用され,企業の利益創出活動から利益計算をする会計の枠組みを提唱した。バッターは,『資金会計論』の中で,操作主義を取り入れて会計理論上の用語を定義し,会計報告の新たな理論を提唱した。マテシッチの『会計と分析的方法』での理論展開には,スティーヴンスの心理学における操作主義的展開の影響が見られる。プリンスは『会計理論の拡大』で,操作的アプローチは会計理論の現存実体の精細化に妥当な方法であるが,現行の構造を社会会計,政府会計及び管理会計を包括する一般理論に変えるには妥当ではないと批判している。ここで見た会計理論は,どれも学際的アプローチの流れの中で操作主義を取り入れたものであり,操作主義を取り入れることによって,新たな会計理論の構築が可能になった。
著者
梶浦 雅己
出版者
愛知学院大学
雑誌
地域分析 : 愛知学院大学経営研究所々報 (ISSN:02859084)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.29-56, 2008-03

本研究はイノベーション普及と収益化を取り扱うが,そのためにそれぞれに別個の研究アプローチを用いて複合的な分析を図るものである。このような複合的な分析アプローチを用いる理由は,本文において詳述するようにイノベーション普及と収益化が必ずしも一致しない実態となっており,単一の一般理論に基づく分析アプローチでは事象解析に限界があると思われ,精緻化するためにそれぞれ別個に論じる必要があるからである。同一のケースについて複数アプローチを用いることについての有効性は先行研究をみても明らかである。例えばアリソン(Allison,Graham T.)は「即席に一般化するよりも(それぞれを補完する)部分パラダイムを精密化し,関連する行為の種類を明確化することのほうが,限定的な理論や命題を発展せしめて実り多い」と述べている。また異なったアプローチから得られる部分モデルは相互に排他的ではなく,部分的強調点を明確にして大きなモデルを構築する際の基礎をなすものである。このような前提に立って,イノベーション普及については普及学研究アプローチ,イノベーション収益化については事業システム(ビジネスモデル)アプローチを用いるものである。本論文(その1)ではそれぞれの研究アプローチに関連する先行研究をサーベイし,それを踏まえて本研究のフレームワークを提示する。
著者
大森 明
出版者
愛知学院大学
雑誌
地域分析 : 愛知学院大学経営研究所々報 (ISSN:02859084)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.37-60, 2005-03-31

わが国では, 環境省による環境会計ガイドラインの公表以降, 外部環境会計の分野が急速に進展してきている。しかし, 開示された会計情報の有用性が課題とされている。本稿では, 特に, 環境コストをかけた成果としてのベネフィットないし効果の測定について検討する。環境会計における効果の測定は, 物量単位または貨幣単位によってなされるが, 環境コストが貨幣単位によって測定される以上, 理想的には環境効果もまた貨幣的に測定されるべきである。環境省ガイドラインでは, 効果の貨幣的測定や経済効果の測定に関して慎重な姿勢を崩していないが, 先進的な企業では, 積極的に効果の貨幣的測定に取り組んでいる。本稿では, これらの先行事例をレビューしつつ, 環境経済学の分野で進展してきている環境の経済評価法の環境会計への援用を検討する。その代表的な手法であり, また近年注目されているCVMやコンジョイント分析は, 信頼性や正確性の観点から, 貨幣的測定の手法としては今後の研究を待たねばならないと考えている。また, 環境会計は, 悪化した環境の改善, 換言すれば環境ストックの向上をもたらしているか否かを判断できるツールとなることを本来の任務とするべきである。しかし, 近年展開している環境会計はフローの側面のみを重視し, ストック面についてはあまり考慮されてこなかった。そこで, 本稿では, 汚染ストックの改善こそが環境コストをかけた成果であると捉える。具体的には, 維持コスト評価法を用いた予算を編成することによって, ストックの改善を明らかにできる仕組みとしての環境会計を提案することにしたい。
著者
青木 均
出版者
愛知学院大学
雑誌
地域分析 : 愛知学院大学経営研究所々報 (ISSN:02859084)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.87-100, 2008-09

百貨店経営統合の一事例として大丸と松坂屋の経営統合を取り上げる。市場が縮小するなか,効率経営を実現する大丸が業績低迷の松坂屋を実質的に吸収する形で経営統合が進んできた。過去10年間大丸は最大の顧客満足を最小の費用で実現することを理念として営業改革を中心として経営改革を進めた。営業改革の本質は百貨店経営にチェーンストア経営の考え方を取り入れ,標準化と分業化を進めることだった。営業を前方業務と後方業務に分け,後方業務は標準化・システム化して費用削減に努め,前方業務は顧客満足向上の切り札として充実させた。その改革を松坂屋に移植することが経営統合初期段階の眼目になっている。改革移植の進行で松坂屋の業績が改善しつつある。